洋食屋を10年切り盛りしたのち、家族の介護と自身の体調を機に店を閉じた店主・羽田晃一さん。料理人として培った経験を生かし、焙煎の世界へ。富洲原の小さな自家焙煎珈琲豆店「凛黎珈琲(リンレイコーヒー)」を始めました。
妥協のない一杯へのこだわりは、四日市港を行き交う人たちや地域のお客さん、そして国内外のコーヒーとの出会いへとつながっています。
そんな「凛黎珈琲」の歩みと、珈琲に込める思いをうかがいました。
| 凛黎珈琲 店主:羽田晃一 四日市にて洋食店を10年営んだのち、家族の介護と自身の体調を機に店を閉じ、自家焙煎珈琲豆店「凛黎珈琲」を開業。世界流通量のうち5%ほどとされるスペシャルティコーヒー豆を使用し、石焼焙煎で一粒一粒を丁寧に仕上げている。開業や経営についての相談にも応じている。 |
味へのこだわり、譲れない一杯の設計図

珈琲豆の品質には、とことんこだわっています。
使うのは、世界の流通量のうち5%ほどとされるスペシャルティコーヒー。その豆を、全国でも珍しい石焼焙煎で、一つひとつ仕上げています。

産地によって、豆の性格はまったく違います。世界各地の特性を踏まえて、目指す味を自分の中で設計図として描き、そこに向かって焙煎とブレンドを組み立てていきます。
たった1粒でも配合が変われば、仕上がりは変わってしまいます……
焼き時間はもちろん、季節や気温によっても微妙に違ってくるので、豆の配合は開業したときからずっとノートに書きとめてきました。このノートは、誰にも見せられない企業秘密です。

そこまでこだわるのは、コーヒーをもっと身近に感じてほしいから。お茶を飲むような感覚で、自然に親しんでもらいたいと思っています。
実際「コーヒーは苦手」という方が、「うちの豆なら飲めるようになった」と言ってくださることもありますよ。
洋食屋から、珈琲豆店に至るまで

今の状態にたどり着くまでには、少し遠回りをしました。
厳しい修業から、洋食屋の10年へ
もともと母方の家がお茶やコーヒーが大好きで、毎日飲んでいました。小さい頃からコーヒーは身近にあったんです。
大人になってからは飲食の世界に入り、洋食のシェフとして修業しました。ホテルの厨房ではフライパンを投げられるような、厳しい現場も経験しましたね。
その後、洋食屋を一人で切り盛りするようになって、一度に7つのフライパンを動かしながら、レジまで自分でこなす日々を10年ほど続けました。
店を閉じ、たどり着いた珈琲豆店

家族の介護が重なったり、自分自身も体調を崩したりしたことをきっかけに、その店を閉じることになりました。
洋食屋を閉じた後に始めたのが、この凛黎珈琲です。
変わった店名だとよく言われるんですが、飼っていた保護犬たちの名前からつけました。自分たちにとって大切な存在だった犬たちの名前を、店名にも残したかったんです。

最近は「2〜3か月勉強して、すぐにカフェを開きたい!」という方をよく見ますが、個人的にはすごく危険だと思っています。
この業界は、簡単に続けていける世界ではありませんからね。経営に関する相談に来てくれる方には、できる範囲で親身にアドバイスしています。
一杯で出会う、国内外のお客さんたち

うちは四日市港の近くなんですけど、港に停泊している船のエンジニアの方が、1週間ずっと毎日通ってくれたこともあります。
海外のお客さんも多くて、ペルーの方に飲んでもらったときは「美味しい!」と驚いてくれました。
産地がどこであれ、淹れ方や飲み方によって新しい発見があるんだと、そのたびに教えられます。
コーヒーを通して、普段なら出会えないような人たちとつながれる。それも、この仕事の面白さだと思っています。
ICGP2026で第2位

一杯を通じて出会う方たちだけでなく、同じ想いを持つ焙煎所同士のつながりも、大事にしています。
小さな焙煎所を紹介する「ROASTER PORT」というグループに、立ち上げの早い段階で加えてもらいました。
2026年には、ROASTER PORT主催のICGP2026というアイスコーヒーの大会で、当店の「冷やし珈琲ブレンド」が第2位をいただきました。
小さな店から発信してきたことが、少しずつ形になってきているように感じています。
参考:ROASTER PORT
コロナ禍を支えてくれた、地域の声

以前は、店舗内にカフェスペースを作ったこともありました。ところが、その直後にコロナ禍が始まってしまって……
それでも、買いに来てくださるお客さんがいる以上、なんとか店を開け続けようと思っていました。
焙煎機を新しくするためにクラウドファンディングに挑戦したときも、目標には届かず、悔しい想いをしました。
なかなか思うようにいかない時期でしたが、通販やお店で買ってくださるお客さんから「大丈夫?」と声をかけてもらうことがあって。そうやって気にかけてくれるお客さんがいなかったら、うちはとっくに潰れていたと思います。本当にありがたいですね。

ちなみに、うちは年配のお客さんも多いんですよ。「ホッとする味だわ」と言ってもらえると、やっていてよかったなと思います。
その安心の輪が、お家で珈琲を楽しむきっかけになってくれたら嬉しいです。
一杯のコーヒーで、人と街をつないでいく

これから挑戦したいことは、いくつかあります。
そのひとつが喫茶店をやることで、お客さんからのリクエストも多いんですよ。
ただのカフェにするつもりはなくて、障害のある方の作品展をしながら、一緒に働けるような場所ができたらいいなと思っています。
最近は世の中が少しギスギスしている気がして、それが寂しいなと感じることもあります。それでも一杯のコーヒーを通して、少しでも人や街といい形でつながっていきたいです。
お店まで来られない方にも、オンラインショップから同じ豆をお届けしています。
これからも、うちにできることを、珈琲を通じて積み重ねていきます。